『ランプの精霊と王様のアブナイ契約』

魔法のランプを擦るとランプの精が現れて何でも願いを叶えてくれる。
そんな夢物語みたいなこと、子どもの頃はともかく今はもう信じる年齢ではない――はずだった。
まさかあんなことが自分の身に起こるなんて……。



「あ〜…つっかれたぁ。なぁ柚羽(ユウ)、帰りにどっかに寄ってかねぇか」
長い一日がようやく終わった…とばかりに机の上をさっさと片付けて席を立った白鷺柚羽(シラサギ ユウ)に声を掛けてきたのは、高校一年の時からずっと同じクラスの友人・蓮峰隼人(ハスミネ ハヤト)だった。
スキンシップが大好きな隼人は柚羽に抱きついて強引に寄り道しようと誘ってくる。
いつもなら「行く行く!何か食いに行こうぜ!!」と嬉々として誘いについていく柚羽だったが、今日ばかりはそうはいかない。
「ゴメン、昨日ゲーセンで遊びすぎて金無くなったから無理」
両手を拝み合わせるように謝る柚羽に隼人は「仕方ねぇなぁ…。柚羽にそんな可愛くゴメンねされたら無理にとは言えねぇよ」と少し照れた様子で納得した。
柚羽は男らしさとは無縁の華奢な身体、白い肌、目鼻立ちのくっきりした可愛らしい容貌をしている。
柚羽は自分でも男らしくない中世的な容姿なのは自覚していた。
だが。
「隼人。今何つった?」
ギクっ。隼人が瞬間フリーズした。
「何かさぁ、可愛くゴメンねされたら、な〜んて聞こえてきた気がするんだけど…幻聴?
ニコっと笑った柚羽の笑顔は思わず見惚れてしまうほどの可愛らしさだったが、その瞳が全然笑っていないため非常に怖い。
柚羽は自分が可愛いと言われることが大嫌いだった。
「そ、そうそう、幻聴だって!俺そんなこと一言も言ってないから…!!」
「ふ〜ん。ならいいけど。疲れてんのかな」
「そうそう、疲れてんだって!早く帰って寝たほうがいいよ!!」
機嫌を損ねては大変と柚羽疲労説にうんうんと激しく頷く隼人のあまりの必死さが可笑しくて、下降一直線だった柚羽の機嫌も回復した。
「んじゃあ帰るわ。バイバイ」
にこやかに手を振って帰る柚羽の後姿を見送った隼人は激しい疲労感に襲われた。
柚羽は幼い頃から格闘技を習得している有段者だ。柚羽の見た目の可憐さに惹かれて交際を申し込む者は後を絶たなかったが、当然柚羽が受けるはずもなく、しつこく迫ってくる者に対しては完膚なきまでに叩きのめしていた。
ヘタに機嫌を損ねてしまうと自分の身が危ない。
「あぁでも、怒った顔も可愛かったなぁ」
だが、無類の可愛いモノ好きな隼人は全く懲りていなかった。


柚羽は両親と兄と姉の5人暮らしだ。
世間的に見れば仲の良い両親と、カッコいい兄と美人な姉に溺愛されて育ってきた。
溺愛されている…と柚羽に言えば断固として反論されるだろうが。
両親からは鬱陶しいほど猫可愛がりに可愛がられ、格闘技の師匠でもある兄は愛情表現の究極の顕れといって突然技を仕掛けてくることはしばしばで、我が侭な姉には使いっ走りをさせられるわで、柚羽に言わせれば「それのどこが溺愛!?」なのである。

「ただいまぁ」
疲れた身体を引き摺ってようやく自宅に帰ってきたが、いつもいるはずの母からの返事がない。
「あれ?母さん、いないのー?」
家中がシーンとしている。誰かがいる気配はない。
「出掛けたのかな」
ぽつりと呟いて自室へと向かった。
ガチャリ。
自室の扉を開いた時、ちょっとした異変に気付いた。
今朝家を出た時にはなかったモノが机の上に置かれていた。見たこともないくらい綺麗な装飾を施された銀色のランプだった。
「何これ…。誰かが置いてったのかな。姉さんか?」
それにしても恐ろしく美しい銀のランプだ。とても高価な物だろう。
「何で俺の部屋にあるんだ」
首を捻りながら、落としては大変と恐々とランプを手に取った。
「これって魔法のランプみたいだよな。擦ると魔人が出てきて願いを3つ叶えてくれるってやつ。…て何ガキっぽいこと考えてんだ、俺」
ランプを翳してみたりひっくり返してみたりと色々と弄っていると、
「うわ…っ」
思わず手を滑らせてランプを落としそうになってしまう。何とか落とすことは免れたが、次の瞬間、物凄い閃光がランプから放たれた。
「えっ?…うわぁぁぁーーーー…っっ!!」
突然空間が歪み、柚羽は銀のランプに吸い込まれるような感覚に襲われる。
閃光は淡い光となり、遂に光が消えた時、柚羽の姿は忽然と部屋から消えていた。








後書きという名の言い訳
WEB拍手の御礼SSだったものです。一時期サイトにUPしていましたが、中々筆が進まなくて中途半端で放り出してしまったものを加筆修正して再UPすることにしました。本当は1話完結の短編のはずだったのですが、書き始めたら次第に長くなってしまったので、4話くらいで完結予定です。

このお話ですが、超王道な展開なのでもう最後まで展開が読めちゃったことと思います(笑)。短いお話ですが最後までお付き合いいただければ幸いです。